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250: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)22:47:14 ID:wDu
このころ――大西洋上のイギリス船に、不吉な影が忍び寄っていた


船員「大変です! 右舷船首と船尾全体に大きな攻撃を受けました!」

船長「くそっ! まさか……奴らか」

船員「あ! またもや衝撃が!」

船長「ぐっ! 沈む! 沈んでしまう!」

船長「おのれ……ドイツ軍めがああああああああああ!」

――


海へ消え行くイギリス船を見届けた後、3つの影は姿を消した
一糸乱れぬ統制、集団攻撃、襲撃されるまで気づきえぬ隠密性――それはさながら狼のように


ドイツ軍の潜水艦『Uボート』が牙をむき出した
251: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)22:50:10 ID:wDu
Uボートの強さはその戦術にあった

①敵船を見つけ次第、本部に連絡
Afzt4cv
②本部が、送信地点に近いUボートに、敵船の場所を送信
CBG8hnR
③複数のUボートで囲い、敵船を沈める
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カール・デーニッツ考案の『群狼戦術』は、イギリスを兵糧攻めにするうえで、絶大な効果を上げる
なにせ、イギリスは植民地からの補給に頼らざるをえず、海路を使うことは必須だった
その補給線すら、Uボートに断たれてしまうなら、その先に待つのは飢えだけである

252: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)22:54:07 ID:wDu
時は戻り、1939年

Uボートで使われる海軍エニグマの解読は、イギリスの存亡がかかる、第八兵舎の重要な任務であった
しかし、おいそれと解読させてくれるほど、海軍エニグマは甘くない


(;゚∀゚)「……だめだ。わからねえ」

(☆…●)「うーむ……」


海軍エニグマが難解である理由の1つとして、使っているローターの種類の多さがあげられる
陸空軍は5種類だけだが、海軍は8種類
単純に組み合わせを比べると、60:336 陸空軍の5倍以上である

もう1つ、鍵の送信方法が、独自であったことだ
エニグマで暗号化してから、手動でもう一度暗号化するという二重暗号化
たとえ、エニグマを解読できても、手動の暗号化のプロセスがわからなければ、解読不可能なのだ

この送信方法を取るネットワークは『ドルフィン』と呼ばれた
ドルフィンは数あるネットワークの中、一番解読が困難なものだった

253: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)22:57:23 ID:wDu
彡(゚)(゚) カリカリ

彡(゚)(゚) カリカリ

彡()()「あかん、この方法でも無理やったか……」

彡(゚)(゚)「ヒント……ヒントがほしいな。やっぱ、あれしかあらへんか」

チューリングが取り出したのは、ポーランド人が偶然解読できた、ドイツ海軍の電報である

彡(゚)(゚)「ふむ……」

彡(゚)(゚)

彡(゚)(゚)「……あ」


1939年 冬
ある一夜、チューリングは、平文と暗号文と鍵の関係から、手動の暗号化プロセスを導き出す
この夜は、戦争において、最も重要な夜だった

254: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)23:00:10 ID:wDu
――

( ゚∀゚)「『ドルフィン』の暗号化方法が、わかっただと!?」

彡(゚)(゚)「せや。やつらは二文字ごとに換字しとったんや。送信者側で説明するで」

彡(゚)(゚)「例えば、メッセージ鍵が『S-D-G』とするやろ? まず、『SDG』をエニグマで換字する。換字先が『WFU』とするわ」

彡(゚)(゚)「次に、『WFU』の下に、適当な三文字を並べる。これはホンマになんでもええ。敵を撹乱するのが目的やしな」

彡(゚)(゚)「その三文字を『YAJ』とするなら、こうなるで」

WFU
YAJ


彡(゚)(゚)「そして、縦の二文字に注目や。この二文字を別の二文字に変換するんや」

彡(゚)(゚)「仮に WY→ER FA→BU UJ→NT に変換したら、さっきの文字列はこんな感じや」

EBN
RUT

彡(゚)(゚)「後は、『ERBUNT』っちゅう文字を、電文の始めにつけるだけや。複文するには、今の手順の逆をすればええで」

(☆…●)「ほう……あのわずかな資料から、よくそこまでたどり着いたものだな」

(☆…●)「だが、このままだと解読できんな」

彡(-)(-)「二文字の換字表……『二連字表』が必要やからなぁ」

( ゚∀゚)「こればかりは、どうしようもねえ。俺らの力が及ぶ範囲じゃねえな」

彡(゚)(゚)「……『ピンチ』にかけるしかあらへんな」


『ピンチ』とは、敵船を拿捕し、船内にあるエニグマ機、日鍵表など、解読に繋がるものを奪取することである
チューリング達は解読の望みを、『ピンチ』に託した

255: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)23:03:14 ID:wDu
だが――


彡(゚)(゚)「……今回のピンチはどうやったんや?」

( ゚∀゚)「お目当てのものは無かったようだぜ。追加したローター3個の内、2個が見つかったようだが」

彡(-)(-)「そか……まあ、それも重要なもんやしな」

二連字表は、なかなか手に入らない
こうしている間にも、Uボートはイギリス船を次々と喰らい尽くしていく



――三週間前に着港するはずの船ですが、今もなお――

(;゚∀゚)

――〇〇沖で、3隻のイギリス船が沈没――

(;☆…●)

――商船二十隻が、一晩で沈められ――

彡()()



解読者達は、歯を食いしばり、それを黙って見続けるしかない
開戦から1940年12月までに、Uボートに沈められた商船は585隻にのぼった

256: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)23:06:02 ID:wDu
風向きが変わったのは、1941年3月のこと
イギリスがクレイモア作戦を実施した月である


彡(゚)(゚)「……」ソワソワ

( ゚∀゚)「持ってきたぜ……」

(☆…●)「今回のピンチで奪った文書か」

彡(゚)(゚)「頼むで、二連字表……二連字表を……!」

( ゚∀゚) ガサガサ

( ゚∀゚)

( ゚∀゚)「おい……」




( ゚∀゚)「ねえぞ……」

258: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)23:09:24 ID:wDu
彡()()「……」

(☆…☆)「……」

( ゚∀゚)「いや待て。確かに二連字表は無かったんだが……」

( ゚∀゚)「プラグボードとローターの設定表があるんだよ」

彡(゚)(゚)

彡(゚)(゚)「ファッ!? むっちゃ重要情報やんけ! ホンマにそんなんゲットできたんか!?」

彡(゚)(゚)「ちゅうか、んなもんあれば、二連字表も復元できるんちゃうか!?」

( ゚∀゚)「で、できるのか?」

彡(゚)(゚)「おう、やったろうやないか! ようやく、海軍エニグマ解読の光が見えてきたで!」

259: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)23:12:28 ID:wDu
二連字表の復元に必要なものは、暗号文の開始位置設定――ローターの初期設定
これを求める重要な単語が、先に挙げたクリブの1つ『EINS』だ


( ゚∀゚)「ほら『EINS変換表』を持ってきたぜ」

彡(゚)(゚)「よっしゃ、取り掛かるで」


『EINS変換表』は、17576通りのローター設定における、『EINS』の変換先を表にしたものである
例えば、ローター設定『G-S-C』において、EINS→KRFG と変換されるものとしよう


彡(゚)(゚)「……ん?」

彡(゚)(゚)「あったで! 114文字目から『KRFG』や!」

(☆…●)「つまり、114文字目におけるローター設定は『G-S-C』ということだな」

( ゚∀゚)「114文字目……つーことは、『G-S-C』から113目盛ローターを巻き戻せば……」

彡(゚)(゚)「ああ、そこが開始位置設定や」


こうして、チューリング達は二連字表の復元に成功する
その後のピンチによる有用な情報も相まって、海軍エニグマを日常的に解読することが可能になった

解読者だけでなく、ピンチを命がけで敢行した兵士たち
彼らの一年以上に及ぶ死闘の末、とうとう、Uボートの全容が明らかになったのである

260: 名無しさん@おーぷん 2017/08/23(水)23:15:58 ID:wDu



彡(-)(-)


陸海空……全てのエニグマは丸裸にされた
残るは、ただ一つ
ヒトラーと将官、 および将官と将官の通信に使われた、エニグマを超える暗号機


彡(゚)(゚)


『タニー』


これがイギリス解読者に立ちはだかる最後の壁であった

266: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)22:45:11 ID:sNn
なぜ、タニーがエニグマより解読し難いのかというと、暗号機の現物を手に入れられないからだ


エニグマ暗号機は、ドイツ軍の内通者、ピンチから、その構造を知ることができた
だが、タニーは上層部間の通信にしか使用されない――いわば、トップシークレットであるため、秘密裏に回収することはほぼ不可能だった

そして、暗号文もエニグマのそれとはまるで違う
エニグマは、1文字が別の1文字に換字されるが、タニーでは、1文字が5つの数字(1と0のみ)に換字される

内部構造の複雑性は言うまでもないだろう
カイ・ローター5個、サイ・ローター5個、モーター・ローター2個、計12個のローターが、エニグマとは違うルールで文字を換字する
ループ構造を元にする『ボンベ』でタニーを解読することはできない


実を言うと、戦争前には、エニグマ暗号機の技術は古いものとなっていた
より洗練された技術と理論によって、エニグマを凌ぐ安全性を付与された暗号機
それが『タニー』だ

267: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)22:48:46 ID:sNn
だが、タニーを破る突破口となるものは、今までと同様、ドイツ側の怠慢だった

送信オペレータが、二本の電文を同じ設定で送っていたのである
これを『デプス』と呼ぶのだが、『デプス』は暗号解読における絶好の材料であった



1941年 夏


政府の暗号学校で働いていた、ジョン・ティルトマン少佐が4000字のデプスを解読した
彼は、暗号化のキーを特定し、タニーが加算式暗号機であることを明らかにしたのだ


だが、これだけではタニーの全てを解するにいたらない
そもそも、暗号文と平文のみで、暗号機の内部構造を暴き出すなど、想像を絶する難度であるはずだ


もっとも、それをやってのけたのが、数学者ビル・タットだったのだが……
彼の偉大な功績が、生前に認められることはなかった

268: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)22:51:08 ID:sNn
1942年

ジョン・ティルトマンの解読、ビル・タットの構造解明により、タニーの正体は露わにされた
チューリングが、タニーの解読に乗り出したのはこの頃である



彡(゚)(゚)「はえ~。とうとうタニーの解読システムが、判明したんやなぁ。これが、タニーのレプリカか」

彡(゚)(゚)「よっしゃ、ここからはワイの仕事やな」


数週間後、チューリングは『チューリング式』と呼ばれる解読法を確立する
解読者たちはさっそくチューリング式をもって、タニーの解読を進めた

269: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)22:54:17 ID:sNn
ところが、10月以降、この解読法は使えなくなってしまう


解読員「大変だ! 12個のローター配置を送信しなくなったぞ!」

彡;(゚)(゚)「ファッ!? クッソ、ローター配置がわからん限り、この解読法は使えへんやんけ!」

解読員「さらに悪い事に『デプス』も傍受できなくなった……ここにきて、セキュリティを固めてきやがった!」

彡()()


デプス……そして、ローター設定を暗号化せずに送るという間抜けな運用
この2つがあってのチューリング式だったのだが、とうとう対策されてしまったのだ

270: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)22:57:03 ID:sNn
彡()()(あかん……チューリング式が使えへんぞ)

彡;(゚)(゚)(解読機を作っても、タニーの膨大な組み合わせの前では年単位はかかる……)

彡;(>)(<)(どないすればええんや……人力も無理、機械でも無理……)

( ´∀`)「機械で解読すればいいじゃないですか」

彡(゚)(゚)「ふ、フラワーズ!? せやけど、暗号機作っても、24時間以内に解読すんのは不可能ちゃうか?」

( ´∀`)「チューリングさん。タニーはエニグマから進化した暗号機です」

( ´∀`)「それなら、我々の使う解読機も進化させればいいのですよ」

( ´∀`)「機械式から……電子式へとね」


トミー・フラワーズ――最終的にタニーを打ち破るのは、チューリングではなく、技術者である彼だった

273: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)23:00:13 ID:sNn
彡(゚)(゚)「電子式っていうたら、真空管使うあれやな。あれで解読機作れるんか?」

( ´∀`)「はい。機械式暗号機より高速で解読できると思いますよ」

彡(゚)(゚)「はえ~高速化の目処は立っとるんか?」

( ´∀`)「はい、現在最も複雑とされる電子装置は、真空管を150本使っていますが」

( ´∀`)「私は、1000~2000本使おうかと考えています」

彡(゚)(゚)「ファッ!? そんなん無理やろ! 真空管っちゅうのはたたでさえ脆いんやぞ」

彡(゚)(゚)「1000本もあれば、必ずどっかの真空管が壊れるはずや。それだけで、装置が止まってまうやんけ!」

( ´∀`)「ところが、そうではないんです。真空管が壊れやすいのは、ON/OFFの瞬間のような、不安定な状態の時なのです」

( ´∀`)「逆に言えば、常時ONにしておけば、状態として安定するため、真空管が壊れることはほぼ無くなります」

彡(゚)(゚)「はえ~そうなんか」

彡(^)(^)「なかなか、おもろそうやんけ! 上にかけあってみようや」

( ´∀`)「ありがとうございます!」

――

彡()()「あかんかったな……」

( ´∀`)「やはり、真空管1000本というのが、懸念材料になったみたいですね」

( ´∀`)「僕は、一旦ロンドンの研究所に戻って、この解読機を設計しようと思います」

彡(゚)(゚)「そうか……力になれなくてすまんな」

( ´∀`)「いえいえ、チューリングさんの力添えは有難かったです」

彡(^)(^)「……がんばってくれやで」

( ´∀`)「はい!」

274: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)23:03:03 ID:sNn
1944年 1月
フラワーズと彼の仲間が作り上げた解読機『コロッサス』がブレッチリー・パークへ持ち込まれた


彡(^)(^)「久しぶりやな、フラワーズ」

( ´∀`)「ええ、ご無沙汰です」

彡(゚)(゚)「ほーん、これがコロッサスか。ボンベ以上に巨大やな」

( ´∀`)「あれから、真空管を3000~4000本に増やしましたからね」

彡(゚)(゚)「思い切ったことするもんやなぁ。未だに、これが動くなんて信じられへんで」

( ´∀`)「あはは、それは動かしてみればわかることですよ」


配置から二週間後、コロッサスはドイツ軍の暗号を解読し始める
成果が出たのは、2月5日土曜日のことだった

その後、コロッサスは改良されていき、毎秒25000字を処理することが出来るようになった
コロッサスにより、タニーの解読量は3倍、4倍に増えていき、ついには、ネットワーク中枢へのアクセスを可能にした

275: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)23:06:37 ID:sNn
作戦、司令、日時――全てが筒抜けとなったドイツはもはや、裸の王様であった
イギリスは、ここしかないと、勝利の根幹をなす重要作戦を実施する


『ノルマンディー上陸作戦』および『フォーティテュード作戦』である


『フォーティテュード作戦』とは、大規模な欺瞞作戦の一部で
「ノルマンディー上陸に見せかけ、パ・ド・カレーへ上陸するのがイギリス軍の狙い」とドイツ軍に思わせる作戦だった

戦車や施設の模型を設置したり、中立国を通してあえて情報を漏洩したり
いもしない部隊の無線通信を偽装したりもした

作戦が順調に進行しているのは、タニーからの情報で確信し
『ノルマンディー上陸作戦』は問題なく成功した


ドイツへジリジリと攻め入るイギリス軍
それを懸命に押し返すドイツ軍

硝煙弾雨、阿鼻叫喚、死屍累々――火薬の臭いと耳をつんざく銃声に支配されたこの戦争も、とうとうその時を迎える

276: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)23:09:05 ID:sNn
1945年



ラジオ<


( ゚∀゚)「……」

(☆…●)「……」

彡(゚)(゚)「……」


ラジオ<アドルフ・ヒトラー自殺  5月8日にドイツ軍が降伏――


( ゚∀゚)

( ゚∀゚)

( ゚∀゚)「は……」

( ゚∀゚)「ハッハッハッハッハ! 勝った! イギリスが勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

(☆…●)「フフ……これで、解読の日々ともおさらばだな」

( ゚∀゚)「おい、チューリングうううう! 俺達勝ったんだぜ! 勝ったぜ俺ら!」

彡(゚)(゚)

彡(^)(^)


ブレッチリー・パークに勤める約7000人が、勝利の報を受け、歓喜の渦に飲まれた
彼らの長きに渡る解読戦争は、こうして幕を閉じたのである

280: 名無しさん@おーぷん 2017/08/25(金)23:32:05 ID:KGl
暗号ってやっぱ大切なんやな

282: 名無しさん@おーぷん 2017/08/26(土)00:22:20 ID:hjh
すごくためになる

283: 名無しさん@おーぷん 2017/08/26(土)01:50:48 ID:h3d
おもろかったで